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クリニック通信

平成27年6月5日

 いま韓国で「MERS」(中東呼吸器症候群)という病気が流行しています。6月3日時点で2人が死亡し、1300人以上が隔離されるなど感染が拡大しつつあり、現地では危機感が高まっています。このMERS、聞きなれない名前ですが、いったいどんな病気なのでしょうか?そして、どんなことに気をつければ良いのでしょうか? 厚生労働省やWHOが発表している最新の情報をもとに解説します。

●どんな病気?
 MERS(中東呼吸器症候群)は、2012年に初めて確認された新たなウイルス性感染症(インフルエンザのように、ウイルスが原因で広がる病気)です。主に中東地域(UAE、サウジアラビアなど)で感染が拡がっているため、このように名づけられました。
 主な症状は、38度以上の発熱、せき、息切れです。下痢などの消化器症状を伴う場合もあります。感染しても症状が現れない人も多いのですが、免疫力が低下している場合、たとえば糖尿病や腎臓病にかかっている人などは重症化し、場合によっては死に至ることもあります。

●どのように感染する?
 WHOによると、主な感染源はウイルスに感染した動物や適切な処理をしていない食べ物、そして人間とされています。どのような方法で感染するのか、感染力はどのくらいなのかなど詳細は明らかになっていないのですが、これまでの調査では、集団生活をしている地域では感染が起こりやすいようだということがわかってきています。

●なぜ今回、急に拡大?
 今回、韓国で急激に感染が拡大した最大の原因は、早期に診断と隔離ができなかったことです。最初に報告された68歳の男性患者の場合、4月中旬から5月初旬にかけて中東地域を旅行した際にウイルスに感染したと思われますが、韓国に帰国したときにはまだ症状が出ていませんでした。帰国から1週間後に発症し、3か所の病院で治療を受けましたが、MERSとは診断されませんでした。4か所めに受診した病院の医師がMERSを疑い、詳細な検査が行われたことで感染が判明。症状が出てから、10日目のことでした。男性はすぐに隔離されたものの、それまでに接触した家族や、同じ病院に入院していた人を中心に感染が拡大してしまいました。

 先述のように、MERSの症状は発熱・せき・息切れなど他の病気でも良く観察されるものであり、特に発症してすぐは、かぜや肺炎などとはっきり区別するのが難しいという特徴があります。誰にも気づかれないでいるうちに、ウイルスが人から人へと拡がってしまっていたのです。

●対策は?
 現時点で日本では、MERSの感染は報告されていませんが、厚生労働省は、海外旅行者が気を付けるべきポイントとして次の点を挙げています。

【旅行前】
・糖尿病や肺の病気などの持病がある人は、旅行の前に医師に相談する。
・渡航前に外務省の海外安全ホームページなどで現地の情報を確認する。
【旅行中】
・こまめに手を洗う
・加熱が不十分な食品(未殺菌の乳や生肉など)や不衛生な状況で調理された料理をさけ、果物、野菜は食べる前によく洗う。
・咳やくしゃみの症状がある人や、動物(ラクダを含む)との接触は避ける。
・咳、発熱などの症状がある場合は、他者との接触を最小限にする。
【旅行後】
・帰国時に発熱や咳などの症状がある場合は、空港にある検疫所へ相談する。
・帰国後2週間以内に、発熱や咳などの症状により病院に行く場合は、事前に医療機関に連絡し、発生地域に滞在していたことを伝える。

●予防薬や治療薬はある?
 新たな感染症と言うこともあり、根本的な治療や予防が可能な薬剤は明らかになっていません。発症した場合は、呼吸が苦しくなるのに備えて酸素を投与するなど、症状を緩和するための治療が行われます。

●今後どうなる?
 6月3日現在、韓国では感染の拡大が続いており、予断を許さない状況です。現在、日本では感染が報告されていませんが、中東地域を含めた全世界からの旅行客が日本を訪れている中で、警戒を怠ることはできません。国は今年1月21日にMERSを「二類感染症」に指定しています。これにより、もし国内でMERSの患者が発生した場合、医師による患者の届出や、患者に対する適切な医療の提供などが、法律にもとづいて行われることになっています。

 私たちにできることは、旅行する場合は先述の注意点を守り、感染の予防や万が一にも感染した場合の適切な対応に努めること、また知り合いに旅行した人がいれば、注意を呼びかけることです。

 繰り返しになりますが、MERSはここ数年のうちにその存在が知られた新しい感染症であり、感染力の強さや発症した場合の死亡率(40%といわれています)さえも詳しくはわかっていません。必要以上に恐れることはありませんが、万が一自分の身近で発生した場合に適切な対応がとれるよう、最低限の知識を得ておくことが求められます。

医療法人社団 茅ヶ崎セントラルクリニック
理事長兼院長 岩尾 總一郎

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